Japanese trap - 日本語の行方

~ posterity of everything ~ 過剰における衰退

ZOMBY x HKE - Tenkyuu

ZOMBY x HKE - Tenkyuu

ヴェイパーウェイブのレーベルDream Catalogue を主催するHKEとXL Recording、4AD等のレーベルで活動するZombyとの初コラボ作品。HKEの関わる作品としては2015年8月にリリースされた「2814 - 新しい日の誕生」以来かもしれない。

このアンビエント作品はやはりHKE自身が制作した動画と合わせてトータルな作品と言える気がする。この音楽と映像から醸し出されるノスタルジー感、安堵感ににた感覚、これは見ている自分が日本人だからなのであろうか?という自問も湧いてくる。

この作品から醸し出される「昭和感」は果たして製作者自身も共有するものなのだろうか?日本人特有のノスタルジー感が何か影響を齎しいるのであろうか?とても不思議な作品である。

いずれにしてもHKEが関わるアンビエント系の作品ではとてもクオリティの高いものである。昨年クリスマスの後、Marcel's music Journalに掲載されたHKEのインタビューでは「2015年はレーベルにとって大きな飛躍的な年であり、今後は著作権等の問題も考慮しサンプルをメインで制作した、いわゆるヴェイパーウェイブ的な作品のリリースは減らしていく」と発言している。ZOMBYとのこのコラボ作品で見られる様に今年はDream Catalogueにとって更に発展、そして何か転換期となる作品を考えている様子が伺える。2015年の末にHKEの別名義SandtimerでリリースされたVaporwave Is Deadというアルバムと彼が提唱しはじめたhardvaporというキーワードからも感じられる。

今後はヴェイパーウェイブというジャンルに捕らわれずレーベル名が示している様にドリーム・ミュージックがコンセプトになるのであろう。

 

 

 

私たちの根底に横たわるアンビエントとチル

トリップホップ、ヒップホップ、ゴス、ウイッチハウス、トラップ、クラウドラップ、グリッチ、サイケ、ダウンテンポ、ウイッチトリル、チルウエーヴ、チルステップ、グローファイ、ホラーコア、トリルウエーヴ、ドローン、エテリアル(ethereal)、ウイッカ(WICCA)・・・

 

近年倍増する勢いで細分化されていく音楽のサブジャンル。これは今まで対極にあると思われていたジャンル同士の融合を実現し、カテゴリーの壁は突破され、今や完全なジャンルレス時代の到来といえる。

先日読んだアダム・ハーパーの「オンライン・アンダーグラウンド」に関する翻訳記事にて”オンラインアンダーグランドは新たなパンクでヴェイパーウエイヴは時代の繰り返しでもある”と分析している。

自分個人の意見として、繰り返されるパンク、ヴェイパーウエイヴ、これらカテゴリーの突破現象には更にアンビエント、チルというコンセプトが根底に大きく横たわっていると加えたい。

Vaporwaveの語源は未発売に終わったソフトウエアVaporwareが語源であると言われているが、個人的には蒸気という意味のvaporの部分に囚われてしまう。何故ならばこれらカテゴリーの突破を積極的に推し進めてきた世代の共通点としてアンビエントサンドを自分の表現文法として身体化し、独特のパッドサウンドが彼らの身体から浮遊離脱したエーテル体を表している様だからである。まさに蒸気と化した彼らの意識はジャンルレスに様々なビート感を浮遊しクラウド上で他者のアンビエントテクスチャーと戯れる。もう一つ蒸気という意味での彼らのアンビエント感は、この世代特有の絶望感と現実に対する感覚がまるで全員がコタール症候群に陥ってしまったかの様な「自分がすでに死んでいる」という感覚が共通点として感じられる。彼らの世界観を表すキーワードとしてghost, ethereal, sanct, god, holy, death などこか崇高的で象徴性の高い言葉が多く挙げられる。近年の主要な音楽現象を見るとやはりアンビエント的なるものを抜きには語れない気がする。

 

ブライアン・イーノが提唱したアンビエントミュージックとポストパンクが現れるのは双方ともに70年代後半と時期が同じである。その後、1990年にKLFのアルバムChill Outでよりシーンに根付いた処からのアンビエント、チルの拡散が始まる。ネット社会の成熟化、そして2000年代のポストパンク・リバイバル、これらがどの様に今のデジタルネイティブ世代の文法としてまで辿り着くのか詳しい経緯は追いきれない。しかしパンク的なるものとアンビエント的なるものはどこか似たような作用を精神面に、社会的に及ぼしている様に強く感じる。

 

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DIGITΛL FORΞST by サイバー’98

DIGITΛL FORΞST by サイバー’98

ヴェイパーウェイヴ専門レーベルのDREAMCATALOGUEからアーティストサイバー’98による新作DIGITΛL FORΞSTを紹介したい。2014年10月リリースの作品である。多くのVaporwaveのアーティスト同様に性別、年齢、国籍は不明。日本語使用や”PC”を意識した楽曲タイトルはvaporwave的なアプローチであるがサウンドは随所にトラップ・ビートの影響が見られる。音楽的にはBurialの様な、ビートと浮遊感のあるアンビエント・テクスチャーサウンドの美しい融合、これは別にBurialからの直接的な影響という意味では無いと思うが、そんな印象を得た。

この様なサウンドをVaortrapと言うのであろう。或はVaporwaveとTRAP beatの新たな形式としてのポスト・トラップミュージックを示した事になるのだろうか。

2分前後の短い曲が多く、何か日本の俳句に似たような表現の潔さを感じさせる。多くのVaporwaveの曲がノスタルジーと社会の衰退の中を浮遊するものが多い中、この作品群ちょっと違った未来感、かすかな希望の様な輝きを感じられる。そして何よりも「暖かさ」を感じる。このジャンルでは特異なサウンドである。Vaporwaveの様なジャンルは一部少数の確信犯的な存在が創造したものを模倣する形で急速に広がったジャンルに思えるが、サイバー’98の場合、個人の想いやコンセプトが時代を少し先に行った処のサウンドで優美に実っている。匿名ではあるが個人の想いを強く感じた作品である。

dreamcatalogue.bandcamp.com

 

www.youtube.com

 

 

アフロ・パンク・フェス 本日開催中(ブルックリンにて)

トラップミュージックがアトランタ発というなら、ブルックリン発のアフロパンク系も最近元気な印象である。今年は初めてそのフェスをパリでも開催し大盛況。ブルックリン発のこのビートも新旧のアーティスト達を交えて新たな輝きを感じる。

AFROPUNK FEST 2015

本日のグレース・ジョーンズ(2015/08/22)

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今年6月、パリでのアフロパンクフェス

 

ブルックリンで注目のアーティストDonMonique

noisey.vice.com

 DonMonique、アフロパンクフェスにて(本人のTwitterより)

 

ネットカルチャーから創出される音楽と日本語の行方

最近トラップミュージックと並行して関心を持っているのは音楽とデザインが密接に絡み、欧米でこの数年広がったVaporwave(ヴェイパーウェイヴ)現象。2014年後半からは大分下火になってきた感があるが、これは欧米社会において起きるべくして起きた典型的なカルチャーパターンなので特に注視している。集合意識の中である個人の行動が日常の反復から突如過去のトラウマを回帰させ、時間軸の倒錯から爆発する様に新しく生まれるカテゴリー、正にこれなのである。これはアビ・ヴァールブルクジョルジュ・バタイユのラスコーの壁画の話をも彷彿させる。Vaporwaveも現在は多様化し、今後新たなムーブメントに変わっていくかもしれない。Vapowave専門のレーベルDreamcatalogueも最近は若干テイストが変わってきている様に感じられる。

最近はこのVaporwaveが更にジャンルレスに発展し、関連するデザインにHip-hopや他ののジャンルにまで日本語の登用が見られる。日本以外にてマス的に定着したTrap Beatにおける和楽器サンプルの使用、日本語名、日本語のタイトルの使用などもその影響と思われる。

インターネットネイティブ世代が現れてからは、ストリートカルチャーと言われていたものが、多くの新しい現象の場をネット空間に移行している。そんな中、日本語が文字として、発生される言語として少なからずとも登場してくるのである。同時に海外からは日本人が想像する以上に日本語の情報をネットで検索し、発想の元となる情報を探究している事が分かる。こうした背景には日本語を学ぶ人口が増えただけではなくグーグルの翻訳機能などネットにおけるIT技術の関与がより簡単に日本語を使う事を可能にしている。自動翻訳なので当然ニュアンスとしてはおかしな日本語になっている事が多い。我々が知らない処で一人歩きしている奇妙な日本語、これも注視して行こうと思う。

 

 

トラップ・ミュージック

日本ではあまり馴染みのないトラップ・ミュージック。2010年代から海外では主要なジャンルとして確立され、近年ではトラップ・ミュージックを中心に様々なジャンルがクロスオーバーし、新たなサブジャンルが次々生まれている。アンビエントとヒップ・ホップ、ゴスとヒップホップ、ゴスとアンビエント、ヴェイパーウェイヴ・トラップ等・・・特にヴェイパーウェイヴ出現以降のサブジャンル間のクロスオーバー現象、チルという概念の意味拡充はアート系への影響も含み大変興味深い。またポスト・ダブステップとしてフューチャーガラージやベースなどといったサブジャンルとも密接に関わっている。これらの現象から、これらの音楽はネットを母体としたリスナー主体により創出されたジャンルであると言える。

78年にブライアン・イーノが提唱したアンビエント・ミュージック、当時コンセプチュアルであったこの響きは確実に現代社会において、その表現は文法化され、習得され、自分達の日常を表す言語となり感情に根付いている。音楽を通じて「カテゴリー」というものが突破されていく瞬間を体感できる事はとても刺激的である。

このブログでは日本人によるトラップミュージックや気になる現象を紹介していく。

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